前回は、脳を健康にする生活習慣の『話・食・動・眠』の中から『会話』(コミュニケーション)の効用についてお話しさせていただきました。今回は『食』(食事・料理)の効用についてお話ししたいと思います。
『食』が脳の健康にとって大切であると言われる理由は大きく2つあります。
ひとつは「栄養」の面から、もうひとつは、美味しいものを食べたり、料理をしたりすることが「脳をたくさん使うことになる。」からです。
脳の栄養素はブドウ糖、アミノ酸、脂質
それではまず、「栄養」の観点からお話ししましょう。
脳の栄養素は「ブドウ糖」です。頭を使うとなぜか甘いものが食べたくなりますが、これは脳がエネルギーとなるブドウ糖を欲しているからです。ブドウ糖がたくさん含まれている食品の代表格はご飯、パン、砂糖などですが、太るからとダイエット中の人には敬遠されがち。でも、一切食べないでいると脳の働きが悪くなります。たくさん食べる必要はありませんが、適度なブドウ糖は脳の大切な栄養源です。
食べる時は、食後の血糖値の変動が緩やかなご飯、ライ麦パン、全粒粉パンなどGI値の低い食品を選ぶとよりよいでしょう。
アミノ酸や脂質も脳には欠かせない栄養素です。アミノ酸には精神を安定させる働きが、脂質には脳の働きを高めてくれる重要な役割があります。
よくちまたで「〜〜オイルを使うといい。」とか「〜〜を食べればいい。」というような話を聞きますが、単品の「食材」だけではその効果はあまり高いと言えるものではありません。けれども、「食事のスタイル」として、和食と、野菜、果物、豆類、精製度の低い穀類、魚介、オリーブオイルで構成される地中海食などは、生活習慣に取り入れると脳の健康にいいということが最近の研究でわかってきています。
でも、難しく考える必要はありません。要は、バランスの取れた普通の食事をすればいいのです。「普通の食事」というのは、朝昼晩、規則正しく栄養バランスの取れたものを食べ、就寝の2時間前から夜食は控えるといったことを習慣化することです。
日々、生活のなかで「うれしい。」「楽しい。」「ワクワクする。」といったプラスの感情を持つ機会が多いほど、脳は若々しくなることがわかっています。
そのわけは、うれしいことや楽しいことがあると、脳の中の直径1センチほどの「扁桃体(へんとうたい)」という小さな器官から「ドーパミン」という幸せな気持ちになる神経伝達物質がたくさん放出されて脳全体を刺激するからです。
認知症予防のカギを握る記憶の司令塔「海馬」も、感情と密接に関係しているので、楽しいことがあるとその働きが高まって脳の健康には非常によいのです。
私達はおいしいものを食べて感動した時や、お花見なんかで集まってみんなでワイワイ食べている時も幸せな気持ちになります。その時、脳内ではたくさんのドーパミンが放出されているんですね。
『食』のなかでも、とりわけ脳への効果が期待できるのが「料理」です。食事をつくる作業には手指を使ったり、メニューを考えたりと、数え切れないほど、脳を活性化する作業が含まれています。
例えば、メニューを考えながら買い物をしている時も、どの順番で作ろうかなど、頭の中では同時にいろいろなことを考えているはずです。実際に作る時も、野菜を刻みながら鍋の火加減を気にしたり、他のメニューの段取りをしながら、お皿への盛り付け方を考えたりと、初めから終わりまで考えて決めることの連続で脳はフル回転しています。
このように異なる作業を同時に行うには、脳の中でもネットワークの働きを高めて、様々な領域が協力し合わなければなりません。だから、料理は脳がすごく鍛えられるのです。
そして、出来上がったものを誰かと一緒に『会話』(コミュニケーション)しながら食べると楽しいし、つくったものを「おいしい!」と言ってもらえれば脳は益々幸せになります。
ぜひ『食』を通じて脳が元気なる生活習慣を心がけましょう。