前回は、脳を健康にする生活習慣の『話・食・動・眠』の中から『食』(食事・料理)の効用についてお話しさせていただきました。今回は『動』(運動)の効用についてお話ししたいと思います。
1日30分程度の
軽めの有酸素運動が脳を健康にする!
脳を元気にさせる方法として最も効果があると明らかになっているのが「運動」です。「運動」といっても、ハードな筋トレや運動量の多いスポーツをする必要はありません。脳を健康にするための運動なら、1日30分程度の軽めの有酸素運動で十分です。
有酸素運動とは、しっかり呼吸をしながら継続的に酸素を体に取り込む運動のこと。1日30分程度の軽めの有酸素運動としては、ウォーキングやサイクリング、軽めのジョギング、水泳などが良いと言われています。
フィンランドで65歳から79歳の1,500名の高齢者を対象に調査したところ、少なくとも週2回の有酸素運動をする人は、しない人に比べて認知症リスクが半減するという結果が出ました。米国でも55歳から80歳までの健康な男女150名を対象に有酸素運動のウォーキングと、そうではない運動のグループに分けて運動と海馬の関わりを調査したところ、有酸素運動のウォーキンググループの海馬が増大していることがわかりました。
それではどうして有酸素運動が脳の健康に良いのでしょうか?
脳の神経細胞のエネルギー源となる重要な栄養素に「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質があります。この栄養素は認知症の原因物質を壊してくれたり、脳への血流量を増やしたり、動脈硬化の原因物質を追い出してくれたりします。実に優秀で脳の健康にとっては必要不可欠な栄養素なのですが、加齢とともにどんどん減ってしまいます。認知症になると、その減り方はさらに加速します。
ところが、うれしいことに、有酸素運動を続けると、この栄養素が体内で作られて増えてくれるのです。そして、この栄養素が増えると、脳細胞のネットワークも広がりやすくなり、記憶の司令塔「海馬」も活性化して新しい神経細胞が生まれます。
さらに、有酸素運動をすると、アルツハイマー病の原因物質のひとつとされる「アミロイドベータたんぱく」を分解する酵素が作り出されることもわかっています。
このように、脳を健康に保つためには有酸素運動が不可欠なのですが、一番大切なことは、日々の生活習慣に取り入れて「楽しく続ける。」ことです。
だから、脳の健康のための運動でやり過ぎは禁物。続けることが嫌になってしまいます。それに「疲れた。」、「面倒だ。」といったマイナスの感情を伴うと、逆に細胞を壊す活性酸素を増やしたり、免疫機能が衰えたりしてしまいます。
そこで、これまで運動習慣がなかった方や高齢の方でも気軽に楽しく始められる有酸素運動としておススメなのが「お散歩」です。
有酸素運動の効果だけではありません。お散歩をすると、季節の移り変わりや景色の変化、風の香り、周囲の音など、五感を通じていろいろな情報がたくさん入って来るので脳を大いに刺激してくれるのです。歩きながらしりとりや数字遊びをすると、脳はさらに活性化します。
夫婦で歩く、友人と歩くなど散歩のパートナーがいれば、第二回目でお話しした脳の健康によい生活習慣、『会話』(コミュニケーション)も楽しむことができます。脳は複数の作業を同時に行うとフル回転して益々元気になりますから、お散歩をぜひ毎日の生活習慣に取り入れてみてはいかがでしょうか。